2015年05月18日
困ったぁ
「うわぁ、黒くなったよぉ。たった一時間牛熊證 行使價なのに焼けたねぇっ!」玄関のドアから覗いた二つの黒い顔に向かって「お帰り~っ!」の代わりにそう言った。佳奈と茉莉は敷地内のプールに今日も行ったのだ。そして、私が期待していた返事「本当?やったーっ!」の代わりに返って来た言葉は「うそっ?日焼け止め塗ったのにぃ。。」で、二つの黒い顔はお互いの顔を見合わせ困惑していた。明らかに日焼けをしたくなかったのだろう。「日に焼けたくないのぉ?」二人の様子に驚いて私が聞くと「だってねぇ、みんな、真~っ白なんだよぉ。みんな綺麗な肌なんだよぉ。佳奈、すぐに焼けちゃうの。」可哀相に。子供の時から白くなることを意識し、気持ちの悪い油っぽいクリームを顔に体に塗りたくらなくてはならないなんて。「いいんだよ、焼けて。焼けている方が健康そうで可愛いよ。」「さっちゃんはいいよぉ。だって真っ白だもんっ。」「さっちゃんも、昔は真っ黒だったんだからぁ。」そう、昔は真っ黒だった。
ヴァージニア日記夏休みの日焼けは私にとって勲章だった。色の黒さでいかに楽しい夏休みを過ごしたかが評価されると思っていたから、私は夏休み入った7月にめい一杯焼けてしまうのがもったいないような気がして、一皮剥ける前に早く誰かに黒さを自慢したくてしょうが無かった。あの日焼けの痛さはまだ覚えている。小学校2年生の時に、真樹の家族に連れて行ってもらった太海の海。民宿の二階の畳み部屋で、真樹と横に並んでTシャツをまくり、真っ赤に焼けた背中を真樹のパパに見せ、ローションのついた黄緑色のスポンジでポンポン叩いてもらったのを覚えている。西日の部屋の中で、染みる痛さに真樹と一緒に悲鳴をあげたのを今でも鮮明に覚えている。
「日焼けすること」になんの否定的意味も含ませないまま私は大きくなり、中学校でも軟式テニス部自主夏休み練習で真っ黒になり、高校でも自主夏休み練習で真っ黒になり、そして大学でも。ところが、19歳で私の日焼け感は大きく変わったのだった。
高校時代同様に、私は毎日勝手に小平のテニスコートに赴き、帰郷していない良枝や美佐と共に朝から晩までテニスに明け暮れ過ごした。良枝が広島に帰郷し、美佐が都合でいなくても、きっと小杉さんか誰かいて面倒みてくれるだろう、時々しぶしぶ相手してくれるだろう、、、と期待して、毎日毎日テニスコートに赴き、砂まみれ、汗まみれになって夏休みを過ごしていた。そして夏休み下旬に行われるテニス合宿の時には、みんなよりも一足先にもうすでにど真っ黒な私がいた。髪の毛を二つに結わき、白金荘の入り口入ってすぐの古い階段に腰掛けて学年ごとに撮った写真の中で、私だけが、男の子に負けず劣らず真っ黒な顔で、白い顔の女の子の中で黒いのにかなり浮いていた。私は私の黒さが自慢だった。「あだちぃ、焼けたなぁ~っ!真っ黒だなぁ~っ!」なんて言われると「そうなんですよぉ。焼けちゃってぇ。」と誉め言葉をもらったかのように、嬉しそうに微笑み返した。
そんな真っ黒になった私に、ある日、津村さんが近付いて来てこう言った。「あだちぃ、顔くらい日焼け止め塗れよぉ~っ!年取ってから後悔しても知らねぇぞぉ~っ!」んまぁ、なんておせっかいなっ!とは思ったものの、何となくその言葉が気になって、そしてそれから私は日焼け止めを塗るようになり、そうなると今度は徹底して日焼けをしたくなくなって来て、周りのみんなと一緒になって、顔に体に白いクリームを塗りたくって、気持ちの悪い思いをしながら汗かきテニスをするようになった。
OLになってからは、さらに気をつけるようになって、一瞬たりとも日に当たりたくないと、夏の通勤には日傘は必須、「あだちくんは本当に白くて柔らかいねぇ。」と荒さんにはいつもほっぺをツンツン押されるほどに、雪見大福のようなほっぺの私になった。日に焼けるとそのまま陽射しを吸収し、すぐに黒くなる私なのに、いつのまにか「白い」イメージを持ってもらうようになり、そして私にとって「白いこと」が美徳となり、「日焼け」は否定的な意味を含むようになっていった。
そんな私だけど、子供時代はやっぱり真っ黒に焼けるべきだと思う。ある朝までそう思っていた。
「う~~ん、、、困ったぁ。。。なんでだろう。。。。これが津村さんが言っていた『年取ってから困るぞぉ。』なんだろうかぁ。。う~~ん。。。」鏡を見ると、私の頬っぺたには大きな大きな大きな染みがぼこぼこっと出現してきたのだ。19では遅かったのか。それとも、365日のハル散歩のせいだろうか。とにかくこの染みを何とかしたい。そして毎日鏡を見ては、自分の肌の汚さに嘆き、無理は承知で、あの化粧品、この化粧品と試す毎日を送っている。「さっちゃん、日本では染み一つ、一万円で取れるんだよ。」そう言う典ちゃんの言葉を間に受けて、一万円の染み取りは今や私のいつになるのかわからない次回の日本帰国の目的の一つとまでになっている。
佳奈と茉莉に「焼けている方が可愛いよぉ。黒い方がいいじゃないっ!」なんて言って置きながら、「いいなぁ、佳奈と茉莉は『年取ってから』私みたいに「染みお化け」にならなくて済むんだぁ。。。」あ、そう言えば、小さい頃、よくママに言っていたなぁ。「そばかすお化け」って。私の手はママの手みたいになったけれど(←クリック)、私の顔もママみたいになったんだ。
そうして今日も私は先日インターネットで買った化粧品を染みにめがけて塗りたくる。
消えろ~消えろ~消えろ~。。。。